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「さうですが、それはさうにちがひないが――」
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
「血圧は少し下つたしね」
老父に注意されるまでもなく、房一は河原町で医師として立つて行く上の先々の困難は十分心得ているつもりだつた。どんなに房一が成功者と目されたところで、一方では彼が河場の一介の百姓息子にすぎなかつたことを河原町の人達は忘れていはしなかつた。その上、河原町には古くから根を張つた大石医院といふものがあつた。
「きさま!あれほど云つたぢやないか。何んだこの真似は!」
と、相沢は口ごもつた。
「たゞし、預かるだけだよ。この分が残つている間はいくら後から来ても貰はんよ。いゝかね」
次に記すのは、ほんとうの怪談らしい話である。
と、酒が少し入るとすぐ真赤になる性質の房一は、その紅黒い顔を火照ほてらせ、円い身体を持扱ひかねたやうになつて訊いた。
ふと気づくと、玄関に人が立つていた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」
「いかんと云ふわけもあるまいさ」
房一は手答へのないのを感じた。